何となくだが、可笑しい気がする。
それはいつもの如く俺の家へとやってきた彼女の姿、その挙動がだった。
何故か時折フッと動きを留めて、ぼんやりしていたかと思えばだ、一人でフルフルと頭を振ってみたり。
そんな姿を、先程から何度か目にしていたから・・・。

「サクラ・・・どうかしたのか?」

俺は単刀直入に声をかけ、問い質してみた。
だがアイツは『え!?』と大きく目を見開くと、『ううん。別に、何でもないわよ?』と口にして。

・・・何でもないだって?

その何処か取り繕ったような笑顔に大きな不審を抱きながらも、俺はとりあえずそれ以上尋ねずにおいた。
そう、コイツが何でもないと口にしているのだ。
とりあえずは様子見という事で、この時は済ませる事にしたのだ・・・が?

「ねぇ、サスケ君。あの・・・ね?」

別れ際、此処でいきなりそう言って口篭った彼女の姿に、俺は再び不審を抱く。
『えっと、その・・・』とやたら迷いを含んだ口調でもって、彼女は上目遣いに此方を見つめてきて。

「何だ?はっきり言えよ?」

思わず俺は、胸のモヤモヤ感が相まってそのように粗野に尋ねた。
すると彼女は、尚も『うん・・・』と口篭り、だが『ううん。何でもない!』と一転首を横に振って。

「ごめん。気にしないで!」
「はぁ?」
「とにかく、そう・・・またね!」

そう言うと、可愛らしく顔の横で小さく手を振り、ニッと微笑みつつ背を向けて・・・。

・・・一体、何だったんだ?

残された俺は納得のいかない気持ちを抱きながら、小さくなりゆく彼女の背姿を見送ったのだ。




― Love like seesaw ―

 


――なあ、サクラ。実は・・・!

ふとした折に思い出されてくる、一昨日の光景。
私は患者のカルテを収納しようとして、思わず手を止めていた。
あれは窓から夕日が差し込み、辺りが赤く染まっていた頃の事。
私はいつもの如く薬草を調合し終えて、使った器具を片付けていたらばだった。
其処へ現れたのは・・・。

『終わったのか?』

振り返った先、慣れ親しんだ火影様直属の忍の姿があった。

『あぁ、リュウさん。』
『サクラ、ご苦労様。何か手伝おうか?』
『いえ、大丈夫ですよ。後はこれとこれを仕舞うだけですから!』

私はそう言って、テキパキと元あった場所に器具を戻し始めた。
するとだ!

『それは重いだろ。』

そう言って、結構な重量のある鉢をひょいと抱えて、運んでくれた彼。
すみません、助かります!
私はそう言って、いつも親切で優しいリュウさんを見つめた。
数年前から、火影である綱手様からの伝達役として、彼とは接するようになった自分。
最初は取っ付き難い人に感じていたのだが、気さくに会話が出来るようになってみれば、何のことは無い、物凄く良い人で・・・。

『ありがとうございます。』
『いや、礼には及ばないよ。』

片が付いたその場にて、私はリュウさんの優しさに大きく感謝をする。
そして身に着けていた帽子と白衣を脱ぎ、手を洗いながらだ。

『そういえば、今日はどうかしたんですか?』
『ん?』
『リュウさんは、どうして此処に?』

何か綱手様からの伝言があってやってきたのではないだろうか?
私はそう思い、彼へと尋ねた。
すると?

『いや・・・。今日は、別にそういう事で来た訳じゃないんだ。』
『え?』
『その・・・だな。』

彼は何故か其処で口篭ると、フッと一旦両目を瞑った。
そしてやや俯き、その顔を僅かに顰めて。

『何ですか?もしかして、何か不味い事でも!?』

普段から真面目で実直なその人の事、私は思わず悪い方向へと頭を働かせた。
だが彼は直ぐにそれを否定。
ただ困惑したような表情だけはそのままで。

『違う。そうじゃなくて・・・。』

一体、どうしたんだろう?
私は彼の態度に、大きく首を傾げた。
どうやら伝達役を仰せつかって来たわけではないらしいが、ならばさてはて、一体何の用であるのか?

『リュウさん?』

そして疑問を声に乗せてみればだった。

『実は・・・その。ずっと迷っていたんだ。』
『え?』
『だって、君は・・・そう、変わらず彼の事を想い続けているのだろうし。だから、こんな事を告げたところでどうしようもない事も分かっていたから。』

ポツリポツリと話すリュウさん。
何故だろう、その身体からはキンと張り詰めた空気が伝わり来ていた!
私は思わず両目を見開き、ただただ口篭る。
えっと、あれれ?
まさかのまさか、これってもしかして・・・!?

『ぁ・・・の?』
『サクラ。』
『っ・・・は、はい?』

一旦グッと瞑っていた両目を見開きながら、彼は私の名前を呼んだ。
それに返事をしつつ、私はクッと胸元に手を当てて。

『今日、俺が此処に来たのはだ。』

――え?

彼の口から聞こえたその言葉が、ドクンと私の鼓動を止めていたのだ。

 

 

ジャーっという水音を聞きながら、あの時の光景に意識を流す。
赤く染まっていた室内の色同様、一気に高揚していった己の胸。
そして『好きだ』という、彼からの驚くべき告白に、真っ白になっていた頭の中。
いや、だってあのリュウさんが私に?
まさか、そんな感情を抱いてくれていようだなんて!?

「・・・。」

あの時のリュウさんの顔つきを思い出せば、カァと頬が熱を帯びる。
驚きが胸を突く中、やはり嬉しさも感じていた自分。
だって、リュウさんは若くして才能溢れた忍であり、イケメンという類ではないものの、その姿形や挙動には品がある素敵な存在なのだ!

・・・そう、サスケ君程ではないにしても!

自分が幼い頃より想いを寄せている彼は、特一級品である。
そして、敢えて格付けするならば、リュウさんはそれに次ぐ準特一級品であろうから。
私はそんな素敵な男子から、直に想いを告げられたのだ!

「っ・・・べ、別にこれはその、浮気とかじゃないわ!」

どうしても思い出されてくる一昨日の光景に、浮ついている己の心。
私は慌てて頭を振ると、そんな自分を強く顧みた。
そうだ、決して自分は疾しい事をしてはいない!
ただ単に、その・・・だから、ええと?

『こんな事、突然に告げてすまない。でも、どうしても気持ちが昂ってしまって・・・。』

真面目で、そして親切で、でも火影直属の忍で、優しさと強さとを兼ね備えた人。
リュウさんはサスケ君とは違う、男らしい魅力を備えている。
そんな彼がだ!

『君を困らせるつもりは毛頭無い。でも、もしもサクラの心に付け入る隙があるのならば・・・考えてもらいたい!』
『リュウ・・・さん。』
『君は今も、アイツ一筋なのか?』
『ッ!?』
『いや、サクラは・・・アイツと付き合っているのか?』

面と向かって問われたその内容に、私は思わず即答出来ずに居た。
いや、自分の気持ちは今も昔も変わらずにいる。
けれど・・・サスケ君と付き合っているのか?と問われるとだ!

・・・私とサスケ君とは、その・・・どうなんだろう?

里へと戻ってきてくれてから、ずっと甲斐甲斐しくサスケ君の家に通っている自分。
これは当初大怪我をしていた彼の看病を兼ねたものであり、けれど密かにずっと想いを寄せていた自分としては、非常に嬉しい事であったのだ。
それがいつからだったろう?
ふとした拍子に寄り添いあい、抱きしめられて、キスをして・・・で、気が付けば深い仲になっていて。
サスケ君が木の葉の忍として任務に復帰した今では、休みの間に彼へと会いに行き、そして数時間を共にする。
たまに二人で外に出かけたりもしたものの、2〜3か月に一度あれば良いぐらい。
殆ど自分が押しかけ女房の如く会いに行き、そしてそれなりの一時を過ごしているのだけれど・・・。
そうだ、改めて考えてみれば、一度たりとて言われてはいないのだ!
『好きだ』とか『愛している』とか、サスケ君から想いを告げられた事なんて!

「私って、一体・・何?」

流れていく水音を聞きながら、思わずポツリと呟いてみた一言。
それがジワリと胸を犯していくようだった。

「私とサスケ君って・・・?」

直後、カツンと響いた靴音に、ハッとなり私は現実に戻る。
そして緩やかに背後を振り返り見ればだった。

「リュウ・・・さん。」

其処には、心惑わす先輩忍者が立っていたのだ。

 


どうにも気にかかり、モヤモヤする胸の内。
俺は止むを得ずこの疑問を解消する為、木の葉病院へと足を向けていた。
今日のサクラは早番であり、恐らく4時半には勤務を終える筈である。
つい先程火影に呼ばれ、出向いたついででた。
そんな風に思い、俺は病院の門を潜ったのだが・・・。
慣れない行為である為、擦れ違う奴等からの視線が妙に気になる。
だがそれに耐えながらも、俺は院内奥へと足を進めた。
そして途中で擦れ違った医療忍者へとサクラの居場所を尋ね、薬草調合の間へと辿りついたのだ・・・が?

・・・何だ、アイツは?

見ればドア越し、ガラス面から覗き見た室内には、見つめあい立ち尽くす男女の姿があった!
片方は間違いない、自分の心に唯一住まう桃色をした彼女である。
だがもう一人!
彼女へと熱視線を向けている、不埒な男はだ!?
一度か二度、言葉を交わした事がある気がした。
確か火影直属の忍で・・・。
名前など覚えても居ない、ただその優顔だけは知っているその男が、サクラに何をか話しかけていた。
対する彼女は、少し困ったような顔つきで、潤んだ眼差しを奴に向けていて!
思わず両目が細まり、俺はギリと奥歯を噛み締める。
どう見ても、今この室内の雰囲気は部外者立ち入り禁止であろう。
サクラに想いを寄せる男が、何をか口説いている所のようで!
俺は胸に立ち込めた煙をグッと堪え、とりあえず冷静に室内を見つめた。
話す男。
俯くサクラ。
一歩近寄り、また男は話す。
そんな奴を見つめ、惑うサクラ。
そしてもう一歩、彼女を腕に出来る距離にて、男は何をか訴える。
これに、サクラは何度か首を横に振って・・・!

 

やがて――ガチャリと開いたドアの内から、男が渋々といった感じで歩み出てきた。
そして室内へと名残惜しげな目線を向けると、フウと1つ息をつき、やがて廊下を歩き出そうとする。
俺は壁添い、ただジッと立ち尽くしていた。
すると向こうも一等の忍。
自分の存在を見つけ、ハッとして、微かに両目を見開く。

「ッ・・・うちは、サスケ。」
「・・・。」

どうやら向こうは俺の存在を知っているらしい。
その顔つきには、通常以上の驚きと焦りのようなモノが見て取れた。
・・・ということは、サクラへと求愛するにあたって、自分という存在ネックをも覚悟の上という事だろう。
俺は即座にそう推察すると、刺す様な眼差しを男に向ける。
すると奴もまた、同様の眼差しを向けてきて・・・。

「火影の伝令役というのも、何かと大変だな。」
「・・・。」
「サクラに言い募っていた所を見るに、余程の重要な用件だったようだが?」
「っ!」

俺は皮肉を込めて奴へとそう言ってやった。
見ていた限りでは、どうやらこの男は玉砕。
懇々とサクラに言い寄ってはいたが、結局、受け入れられなかった様子だったから。
すると奴は強く顔を顰めて。

「其方こそ、こんな所に一体何の用だ?」
「さあな。だが、恐らくお前が思っている通りの用事でな。」

単刀直入に問いかけてきた奴へと、俺は変化球にて答えを返した。
だがこの言い回しが、酷くお気に召さなかったらしい。

「っ・・・何処が良いんだか。」

奴はボソリとそう呟くと、此方を鋭く睨み見てきて。

「彼女は一体、お前の何に惹かれているというんだ?」
「・・・。」
「まさか、その瞳術のおかげじゃあるまいな?」

どうやら思ったよりも好戦的な男らしい。
いけ好かない言葉と目線とで自分に挑んできた。
だから・・・!

「負け惜しみもいいところだな。」
「ッ・・・!」
「この瞳でアイツを囲っているって?笑わせるな。」

奴へとそう反撃を喰らわせ、俺はワザと口元を緩めて見せた。
途端に男の額に皺が寄る。
それをチラリとだけ見やると、薬草調合室の方へと顔を向けて。

「お前がアイツにどんな気持ちを抱いてようが、俺には関係無い。ただ・・・。」
「・・・。」
「目障りだと感じた時には、容赦はしない。」

目に力を込めて、低い声で淡々と言い告げてやる。
そんな俺を、奴は静かに睨み返してきた。
そして何をか言い返そうとして、だが止めたようだ。
フンッと1つ鼻を鳴らすと、悔しげな顔つきでこの場から歩き去っていったのだった。

 

 

ドアを開けたところで見つけた、壁添いに立っている人物。
それが誰なのかが分かった瞬間、私の胸が驚きに染まっていた。
まさかのまさか?

「って・・・え!?サ・・・スケ君!?」

いや、というか、何故に彼がこんな所に居るのだろうか!?

「どっ、どうしたの!?」
「・・・。」
「まさか!怪我でもして・・・!?」
「違う。」

慌てて駆け寄ろうとした私へと、彼は端的にそう答えた。
確かに、見回したところ、彼の身体には目立った外傷なども無いようだ。

「なら、何で・・・?」

いきなり、どうしてサスケ君がこんな所にやってきたのか!?
私は思い切り目を丸くして尋ねる。
するとだ。

「出かけたついでに寄ってみただけだ。」
「ついでって・・・。」
「悪いか?」

彼が口にした言葉が信じられず、私は思わず復唱していた。
だって、ついでだなんて、そんな事!?

「し・・・んじられない。」

これまた思わずそんな言葉を口にすればだった。
彼はちょっとムッとした感じで顔を顰めて。

「今日はもう、アガリだろう?」
「っう、うん。」
「なら、帰るぞ。」

顎で病院の通路を指した彼に頷き、私は止まっていた足を動かしだす。
そして壁添いに立ち尽くしていた彼の正面まで歩み寄ると、『行こう?』という感じで見上げた。
だが、何故か動こうとしないサスケ君。
これに『どうしたの?』と私が小首を傾げた直後だった!

「ッ・・・ひゃ!?」

グイッといきなり身体が引かれ、そのまま彼の胸の中へ。
あまりに急な出来事に、私は驚く間もなく抱き寄せられていて。
何が何だか?
目を丸くしながら、彼を振り仰ごうとしたのだけれど・・・。

「サクラ・・・。」
「っ・・・な・・・なに?」

本当に、今日のサスケ君はどうしたのだろう?
いつものクールな彼らしくない、妙に強引で積極的行為。
此処は人目のある場所だし、そんな中で彼が私を抱き寄せるだなんて!?
いや、そもそも迎えに来てくれようだなんて、こんな事・・・!?

「さ、サスケ君?」
「何だ?」
「だ、大丈夫・・・?」
「あ?」

思わずそんな事を口にした私に、彼は視近距離でしっかりと顔を顰めた。
だってこんな事、通常ならば絶対に在り得ない!
ううん、今まで一度たりとてしなかった行為だ。
だから、やっぱり何処かで酷く頭を打ったとか、そういう何かとんでもないアクシデントに見舞われた所為なのではないかと、私には思えて!
するとサスケ君は大きく呆れ顔となる。

「お前は・・・俺の事をどんな風に見てんだか。」
「・・・。」
「ったく。」

そして鼻で大きく息をつくとだった。

「好い加減に、分かれよな。」
「え?」
「サクラ・・・お前だからこうしてんだろ。」

いきなりに次ぐいきなり。
この思いもかけない一言に、私は息が止まっていた。
そしてドクンドクンと、ヤケに五月蝿く鳴りだす鼓動。
熱くて逞しい彼の腕の中、私は呆然と眼前の黒い瞳だけを見つめていた。

・・・そんな、私だからって・・・!?

それは、つまり・・・?
ええと、あの、その・・・!?
気がつけば、ジワリと込み上げてきた涙。
それが両目を滲ませ、彼の顔をぼやけさせていた!

「や・・・だ、変なの。」
「・・・。」
「何でだろう、涙が出てきた・・・。」

そんな私をキュッと再び抱きしめると、彼は『泣くなよ』と呆れ声で呟いた。
そしてそのまま、これまたいきなり・・・!

「ッ・・・ん。」

繋げられた唇は、強引で・・・だけととても甘く優しい・・・。
やがて、つ・・・と離れたその口元から、零れ聞こえた一言!

――愛してる。

その夢のような言葉が大きく胸を奮わせて、私は陶然となりつつ、そのまま、抱きしめる彼に身を委ねる。
今までずっと、一途に想い続けて来たこの心。
それが今、確かに報われた気がして!
やがて、震える手でソッと愛しい彼の背に手を回した。

・・・私も、世界で一番貴方が好きです!

そして心からの想いを、今改めて告げたのだった。


                              〜完〜


最後までお読みくださりありがとうございます!

此方の小説は、サイト『翡翠と黒曜石』の姫蝶様へ捧げます♪